2020年5月20日水曜日

会社からオフィスが消え、街から強盗が消える?「好奇心とイノベーション」編集工学の松岡正剛さん

コンセプター坂井直樹が、今起きている社会変化の中で、少し 先の未来で「スタンダード」となり得そうな出来事や、従来の 慣習を覆すような新しい価値観を探る対談。第 1 回目は編集 工学者の松岡正剛さんと語り合います。松岡さんの蔵書 2 万冊が 壁一面に広がる編集工学研究所内のブックサロンスペース「本楼」 で対談を行いました。

データが街を安全に、人を倫理的にする

坂井 :これまで「会社」というと、オフィスがあって、社員が通勤するものと思われてきましたけれど、今や仕事もミーティングも、どこにいてもできるようになりました。僕の 会社は、自前のオフィスを完全になくしました。今 71歳(対談当時)ですが、まだもう少 しやりたいことがあったので、極力スタッフを減らして、場所もなくして、コストゼロに 近い形にしたんです。

そのほうが好き勝手できますから。それで海外にばかり行っていま す。オフィス自体をなくす選択をする企業は出てきていて、社員が集まって働くスタイル が崩れれば、会社の未来のスタンダードは、従来とは違うものになるんじゃないかと思い ます。

思い返せば、僕が日産「Be–1 」のコンセプトを出したとき、街中には四角い車しか なくて、奇妙な車と言われましたけれど、今や丸いデザインがスタンダードになりました。 イノベーションというのは、そういう新しいスタンダードをつくることなんじゃないか、 僕らがまだ見ていない未来のスタンダードの兆しが生まれているんじゃないか、そんなことを考えています。

松岡 :そうか、坂井さんも 71歳だ。でも暴走しているね。僕は 74歳(当時)だけれど古稀のときに再暴走を決断しました(笑)。ところで、オフィスで働くとか、通勤するとか、 そういったこと自体すべてがネーションステート(国民国家)の官僚と工場がつくりあげ た「デファクトスタンダード」の塊なんですよ。

定められた規格はないけれど、結果とし て事実上標準化している「バカ常識」みたいなもの。ある部屋ができると、誰もが入口が あるだろう、きっと窓があるだろうと思ってしまい、やがて全体にデファクトスタンダー ドというものができあがります。でも、デファクトスタンダードに埋もれていると、ニュー スタンダードはなかなか生まれてきません。

例えば駅の改札を切符から自動改札に変えた電子マネーのように、新しい発見がいりま す。PC の出現からスマホまで、あるいはミサイルからドローンまで、病気からゲノム 情報まで、この数十年の変化を考えると、既存のスタンダードで埋まり過ぎた時代が長かっ たんだと思います。














坂井: 今、上海へ頻繁に行っているのですが、決済は、ほぼすべて電子マネーで、日本の5年、10 年先の未来を見ている感じがします。QR コードにスマホをかざすだけで決済 できて、現金を持ち歩かないから、ホームレスの人も QR コードを付けてお金を集めて います。強盗も街から消えちゃうわけです、人を襲っても意味がないですから。そういう 状況を目の当たりにすると、「現金通貨」自体がいらなくなってしまうのは確実だと思わ れます。

松岡 : ビットコインがうまくいけば、通貨自体も変わっていくかもしれないね。

坂井:そもそも「現金通貨」が流通しなくなれば、ATM も造幣局も、いずれは銀行も AI などを含むシステムやインフラに吸収される可能性が高くなります。僕から見ると 中国はフィンテックもビッグデータも日本では追いつけないぐらい進んでいて。
「好奇心とイノベーション」に続く


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