第5回は、「ヒトと AI の共生環境の実現」を目指し設立された ギリアの代表取締役社長・清水亮さんとの対談です。令和時代 の人工知能・AI はどうなるのか、人間の知能を再現できるのか。 人間の知能はどんなものなのかを掘り下げます。
清水 亮 ギリア代表取締役社長
新潟県長岡市生まれ。プログラマーとして 世界を放浪した末、2017 年にソニー CSL、 WiL と共にギリア株式会社を設立、「ヒトと AI の共生環境」の構築に情熱を捧げる。東 京大学先端科学技術研究センター客員研究 員。主な著書に『教養としてのプログラミ ング講座』『よくわかる人工知能』『プログ ラミングバカ一代』など。
[人工知能を語る前に......そもそも人間の知能って何?]
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坂井 :ディープラーニングが注目されるようになってから、何でもかんでも人工知能、AI と呼ばれています。
清水 :僕はむしろ人工知能の概念を広げて、電卓から人工知能と呼んでいいと思っているんです。人工知能とは何か。それは「人間の知能を、どんなものと認識するか」を考えるのと同じことです。人工知能が発展するプロセスは、実は、知能をどう認識するかの進化の話なんですよ。例えば 100 年ほど前だと、集計作業は機械にはできないと思われていたけれど、穴 あきカードを発明して、穴の数を数える機械をつくったら、 13年かかると言われていた集 計期間が 1年半に短縮できた。そうやって人間にしかできないと思われていた知的作業を、 機械を使って効率的にやっていくことに関心が高まっていったんです。穴あきカードをつ くった会社は IBM という名前に変わっていくわけですけれど。
坂井: 人力でやっていた情報処理を、機械が代わりにやることで、高速にできるようになりましたよね。
清水: 集計は足し算ですが、次はもっと難しい計算ができるように考えて計算機ができました。だから電卓は、人工知能を目指す最初の道のりにあるわけです。
坂井 :知能を機械化する試みの始まりですね。
清水: 言葉と言葉の関係性も、計算機上で扱われるようになります。第 2次世界大戦下では、暗号を解く機械がつくられました。有名な話ですが、ドイツの潜水艦 U ボートがど こに現われるかは暗号化されていて、解読のためにイギリス政府は数学者を集めました。 ところが暗号の鍵を解くために、すべてのパターンを総当たりで試そうとすると、一つの 暗号を解読するのに、 1万人の数学者がいても 2000 年かかる。でも20 分以内に解か ないと意味がない。そこで数学者のアラン・チューリングは、人力ではなく暗号解読する 機械を開発して、解読に成功します。
坂井: チューリングは、人工知能の父と呼ばれるようになります。
清水 :ここで知能とは何か、という話に戻しますが、最初は「計算が正確で早い人は賢くて知能が高いから、計算を機械化したら人間のように賢いモノがつくれる」と期待した。 けれど、いざ計算機ができて、計算するスピードが上がっても、「求めていた知能と違う」 となって、人工知能の研究は一度挫折するんです。次に「賢くて知能が高い人は、たくさんのものを知っている。問題を解決する最適な手 段が選べる」という仮説があって、いろんな情報処理方法、アルゴリズムをコンピュータ で実行できるようにしました。けれど、やっぱり求めていた「知能」とは呼べなくて、人 工知能の研究は行き先を見失ってしまった。これが 1990 年代初頭です。
坂井 :人間の思考を機械が再現できているとは言えなかったわけですね。
清水: 例えば、犬と猫の違いを写真だけ見て判断するというのは、アルゴリズムでは実証 できません。でも猫は、相手が猫なのか違うのか、わかるわけですよ。
坂井: 猫にもできることが、人間がつくった人工知能では説明できない、と。
清水 :「知能ってこういうものだよね」と仮説を立てて、それを再現しようとする人工知能の研究と並行して行われてきたのが、理屈はわからないけど生物の構造と同じものを人 工的につくり出して知能を再現しようというアプローチです。チューリングが活躍したの は 1940 年代ですが、同時期にアメリカの神経学者のウォーレン・マカロックは人工 ニューロンを発表します。神経細胞をコンピュータで人工的につくり出して、学習させて 知能を再現しようとしました。
坂井 :これがディープラーニングにつながっていくんですね。
清水 :でも長いこと目が出なくて、人工知能の研究は縮小していきます。僕は小学生の頃から人工知能をつくっていたけれど、就職する頃、人工知能だけで食べていくのはすごく難しくて、それで OS とかゲームの方に進んだんです。
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