「百年海図巻 100 Years Sea」日本の先人達が描いた波は、よく線の集合で表現されます。そして、その線の集合には、波や海が一つの生き物かのように、どこか生命を感じます。それは、彼らには、自然に対して畏敬の念のようなものがあり、波や海が一つの生命に見えたからではないか。そして、彼らには実際、古典的な日本画のように世界が見えていたのではないか、と考えました。猪子寿之
尾形光琳(1658-1716)の「白楽天図屏風」は、古典的な画法で描いているのに、最新のグラフィックアート展に出しても通じる構図。大小のデザイン化された青海波の中で荒れ狂う海と、静かさを示している左上の山。今にも転覆しそうな急角度の右の船と、安定した左の小さな船。バランスが絶妙な大胆で巧緻な絵だ。光琳の絵はまるで宝石のように華やかだ。
チームラボの説明文。「百年海図巻 100 Years Sea」2009年9月、WWF(世界自然保護基金)は「今世紀末までに地球の海面は最大120cm 上昇する」との予測を発表しました。これは、従来の上昇予測の約2倍という数値です。この予測を島国に住む私たちは、より身近な問題として受け止め、ひとりひとりが何かを感じ、考えなくてはならない状況なのだと思います。『百年海図巻』は、上映時間が100年の映像作品です。WWFの予測に基づき、一世紀後に向け上昇してゆく海面の様子を100年間実寸の時間で上映し続けます。 2009年の予測に基づくこの映像は、生まれた瞬間から現実の海とのパラレルな世界になります。
100年後、私たちが『百年海図巻』を見たとき、現実の海は、いったいどんな様子になっているのでしょう。私たちが予想したよりも凄惨な海なのか、それとも穏やかな海なのか。映像の海はその時がくるまで上昇し続けます。 コンセプト日本の先人達が描いた波は、よく線の集合で表現されます。そして、その線の集合には、波や海が一つの生き物かのように、どこか生命を感じます。それは、彼らには、自然に対して畏敬の念のようなものがあり、波や海が一つの生命に見えたからではないか。そして、彼らには実際、古典的な日本画のように世界が見えていたのではないか、と考えました。下図は青海波:半円形を三重に重ね、波のように反復させた図柄。
常識によって固定化された現代の客観的世界と、かつて私たちが見ていた主観的世界を再び統合的なものにする。そのような考えの基、今回は、仮想の3次元空間上のどのような視点から切り取っても、日本画的な線の集合で表現されるように、波を立体的に構築していきました。そうすることによって、先人達には世界がどのように映っていたのかを、知ることができるのではないかと思ったのです。 3次元空間上に立体的に構築された世界を、日本の先人達の空間認識を再現するように映像化する。そうすることによって、鑑賞者が映像の世界を客観的に観るのではなく、映像の中の世界と自分がいる世界が曖昧で表裏一体になるような、新しい映像表現ができるのではないか。そして、映像で表現される世界が、もっと身体的な体感になるのではないか。そんな疑問への試みなのです。
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