2010年12月7日火曜日

誰も最初のデザイナー名を覚えていないアノニマス・デザイン(匿名のデザイン)の極限はゼムクリップ

いま、このブログを読んでいる方は、しばらく周囲を見回してほしい。色々なモノが目に入るはずだ。それらを、もっと注意深く見てみると、普段は当たり前に使っているモノが、まるでカメレオンの擬態のように日常生活に溶け込んでいる。それらの中には「アノニマス・デザイン」(匿名のデザイン)と呼ばれているものが含まれている。もちろん、誰かが最初にデザインしたわけだが、誰も最初のデザイナーを覚えていない、あるいはデザイナー名が記録されていないモノもある。
細長い長円形のクリップ
http://clipart.myds.jp/stationery/paper_clip/
そんなアノニマス・デザインの典型はゼムクリップだ。最も一般的に使われている細長い長円形のクリップは特許が取得されておらず、誰が発明者(デザイナー)かはっきりしていない。ゼムクリップは針金をたった3回曲げただけの工業製品だ。これほどミニマムでかつ便利なモノも世の中に少ない。現在使われている標準的な「ゼムクリップ」と呼ばれるクリップは、こんなシンプルな構造なのに、スプリング機構を備えていて、十数枚のコピー用紙を軽く挟み込むことができる。

ローマ時代から真ちゅう製のクリップが使われていたというから、古くから伝わるものを少しずつ改良して今の形に落ち着いたようだ。現在のものは一九世紀後半にイギリスのゼム・マニュファクチュアリング・カンパニーが発明したものだが、こちらもすでに他社が製造していた製品を参考にして作られたという。
デザイン・クリップ
その後も趣向を凝らし三角型やハート型、渦巻き型などの曲げ方のデザイン・クリップが多数開発されている。しかし、市場で占める割合は相変わらず長円形に比べてさほどの量には届かない。「デザインと機能」を最小限の要素で成立させたゼムクリップは、多くの人がこれを超える曲げ方を研究しても結局は、これ以上に合理的な方法が見つからなかったのだ。

どうして今アノニマス・デザインなのだろう?と僕は考えてみた。アノニマスとは、「誰がデザインしたのかも解らない」が、「モノは誰もが知っている」ありふれたもの、というような意味からは、「誰々のデザイン」design by・・・・・という作家性の否定とも取れる。あるいは僕も大いに責任があるケータイや自動車などの小ロット多デザインという「デザインの大量生産」の時代に対する警告かも知れない。

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