2020年7月26日日曜日

アマチュアだからこそ時には破壊的で革命的なことができる

もう一度「坂井直樹」を理解して頂くために約12年前に書いた紹介文を投稿します。
なお来週の月曜日 2020年7月27日の午後からオンラインサロン「コンセプター坂井直樹の近未来ラボ」を開設します。

僕は19歳のときに渡米して、タトゥーTシャツを作って売るという仕事からデザインの世界に関わるようになりましたが、58歳(現在72才)になる今でも、デザイン業界の人たちから「坂井さんは何を業種としている人なのかわからない」といわれることがあります。そういわれてしまうのも仕方のないところで、いわゆる“デザイナー”という、職人気質で細分化された世界とはもっとも離れた場所に立っているのが僕という人間だと思っています。

確かに40歳前後の一時期、僕は精力的にモノ作りに関わってきましたし、その中には日産Be-1、オリンパスO-Productなどのプロダクトデザインもあります。でも、僕自身は決してプロダクトデザイナーではない。むしろ、僕のような素人が従来の「四角い車」という記号を壊して、Be-1のような丸い車のコンセプトワークを行ないました。このようにアマチュアだからこそできる破壊的で革命的な何かに興味を感じてしまうタイプの人間なのです。

「コンセプター」。自分自身のことをそう呼んでいます。自分はデザイナーではないし、ディレクターやプロデューサーでもない。もともと思いつきで使い始めた肩書きなので明確な定義はありません。デザイナーやディレクターといった仕事が渾然一体となった姿かもしれませんし、それらを包括する上位概念であるかもしれない。いずれにしても、ひとつの形にとらわれない僕自身の好奇心を表現した肩書きだと思っています。

マーケティングとブランディング、そしてデザインが3つの柱

では、コンセプターとして僕がどんなビジネスをしているのかですが、なかなか同じようなビジネスを行なっている企業や人間が少ないので、説明が難しいところですが、ナイキという会社が僕のビジネスのスタイルとかなり近い形態だと思っています。ナイキは自社で製品を作っているわけでも流通を行なっているわけでもありません。彼らが手がけているのはブランディングとマーケティング、そしてデザインです。

コンセプターとして僕が行なっているのもまさにこの3つで、企業の持っている感性やブランドイメージを体現するため、そしてコンシューマーのエモーションを掴み、それをプロダクトに反映するために、デザインを始めとしたクリエイティブな要素をトータルで企業に提案しているわけです。











最近では特にマーケティングに大きな関心を持って力を注いでいます。もともと僕は人のエモーション、気分とか情緒というものとプロダクトがどう関わっているのかということに昔から関心を持っていて、それについていろいろと考察しているうちに「人間というのは自己表現のひとつの形態としてモノを購入する生き物だ」ということに気がつきました。

どういうことかというと、人間というのは一定の価値観や趣味、センスを持っており、モノを買う場合でもその価値観に照らし合わせ、一貫性を保てるようなモノを選びます。自分がそのモノを使っている姿を想像し、それが他者の目にどう映るか、それが適切な自己表現になっているかを感覚的に判断しながらモノを買っているのです。
であるならば、消費者が持つ気分や情緒、センスといったものを詳しく分析できれば、彼らが次に何を欲しがるか、どういう消費行動を取るかという“ニーズ”が見えてくる。

これが僕の提唱する「Emotional Program」というマーケティング手法ですが、この考え方はマーケティングだけでなく、デザインも含めたプロダクト作りにも十分応用できますし、そうされるべきなのです。ところが企業のプロダクト、特にデザインに対する意思決定というのは、必ずしもマーケティング的に論理的ではありません。極端にいえば権限を持つ人の好みでプロダクトの最終デザインが決まり、しかもその人はデザインやマーケティングに対して正しい理解を持っていないということがしばしばあります。

本来はデザインも好き嫌いではなく、十分なマーケティングリサーチとその分析から割り出されるべきだと思うのです。そういうことを外部から提案し、アドバイスしていくのが僕の現在の仕事です。クリエーターの持つクリエイティビティを、マーケティングという方法論を使って企業のニーズと結びつけるブリッジ役といえるかもしれません。

若い無名のデザイナーを発掘、育成する

それとは別に手がけているのは、20代の無名のデザイナーを世に出すという仕事があります。僕はプロダクトデザイン、インテリアデザイン、グラフィックデザインなど、非常に細かく分業化されているデザインの世界に違和感があります。そもそもルネサンス時代には、一人の人間が100ぐらいのスペシャリティを持っていることなど当たり前でした。ダ・ヴィンチはその代表です。

分業という方法論は産業革命以後に生まれたもので、一人の人間が同じことをしていた方が効率的だという考え方ですが、これは産業の意志であって、クリエーターの意志でも個人の意志でもない。そういう産業の論理にとらわれている“専門家”よりも、柔軟な好奇心を持ったクリエーターの方がずっとエキサイティングだし、僕は好きです。

ところが商売という視点で見ると、特定の分野を専門にしている人の方が仕事を取りやすいという現実もあります。インテリアもやります、プロダクトもできますという人間にはなかなかスポットライトが当たりにくい。そこで、僕はそういう柔軟な感性を持ちながらも、無名のままでいる若いデザイナーと一緒に仕事をしていく中で、彼らに僕自身のキャリアを伝え、チャンスを与えていきたいと思っています。

いま、そういうデザイナーが外国人も含めて10人ほどいます。グエナエル・ニコラも出会った頃はそうでしたし、11月に発表されたauの新しい機種携帯電話のコンセプトモデルのデザインを手がけた田村奈穂もそうです。こちらはいわばプロデューサー的な仕事ということになります。

こんなふうにいろいろなことに手を出しているせいで、「坂井は何をしているのかわからない」といわれてしまうわけです。人生はあまりにも短いですからね。やりたいことが多過ぎてとても納まりきらず、「○○一筋」というようにはとても生きられないのが僕という人間なのです。


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