2018年12月31日月曜日

新たなる国家の概念を創造するエストニアの挑戦

世界はサイバーパンク的な様相を呈してくるだろう。
エストニアの首都タリン風景 世界遺産の街並み
















IT隆盛の国エストニアについて聞いた。以前この誌面で紹介した「Stylus」社の、日本での事業を推進する廣田周作氏が、IT立国で知られるエストニアに旅をしたと聞いて、早速お話を伺った。

今、世界で起こっていることは、大概のことについてWebである程度の情報は得られるものの、現地で得た情報の貴重さには到底及ばない。今回は廣田氏のお話を中心に、エストニアについてお伝えしよう。













Skypeを生んだソフトウエア先進国のエストニア共和国は、バルト三国の最北端に位置し、ECおよびNATOに加盟する人口134万人の小国だ。通貨はユーロ。首都は世界遺産で有名なタリン。その国土面積は九州くらいだ。

しかしその小さな国が、あのSkypeを生み、電子政府をいち早く構築し、国家戦略として国内のITインフラ整備に力を入れ、今や世界の注目を浴びている。どうしてエストニアは情報テクノロジーの面で世界をリードできたのか?

ソ連からの独立後、基本的なインフラが不足し、経済的にも貧しく、世界的な大企業も存在しない国で、唯一ITエンジニアだけが国際競争力をもっており、彼らがソフトウエア開発でIT立国を牽引したのだ。














IDひとつで暮らしが成り立つエストニア、憲法でインターネットへのアクセス権が保障されている。それを実現するためのITインフラ環境の整備も国土全体にわたって行われ、行政サービスのほとんどは個人の端末ですませることができる。

これはX-roadという技術基盤によって、様々な政府機関、警察、病院、学校などのデータがIDひとつに紐付けられているからだ。デジタルサービスの進展で、銀行の窓口なども、閑散として人がいないそうだ。












 画期的な「電子居住権」という制度。2014年からエストニア政府は「電子居住権」という制度を始めている。これは外国人でも同国の電子居住者になる事ができ、会社設立や銀行口座の開設が可能になるというものだ。もちろん行政サービスも受けられるようになり、エストニアを拠点にEU内で事業が行えるようになる。他国に比べて起業のハードルを低くし、世界から起業家を誘致して、さらなる自国の成長を狙っている。
エストニア政府主催のテックカンファレンスLatitude59会場風景
















Latitude59会場風景

















多くのスタートアップがオフィスを構えるテレシキビエリア
















情報の資産化が必要とする情報銀行。エストニアで今議論されているのが、GDPR(EU一般データ保護規則)による個人情報保護の問題である。EU内の個人情報を所定の手続きなしに域外に持ち出せないとするものだ。
















その目的はEU域内の全ての個人に個人情報のコントロール権を取り戻し、保護を強化するためだ。別の見方をすれば個人情報の資産化ということであり、公開非公開を自分で決めてビジネスにすることができる。言うなればme to ビジネスが可能になることである。そこで出てくるのが個人の持つデータを預かり、管理し、運用する情報銀行の概念である。情報銀行が現実化すれば個人が持つ情報の価値は一変するだろう。
株式会社Henge廣田周作氏
















エストニアが変える?国家のあり方。エストニアという国にとって、もはや国境はあまり意味をなさない。いわば国家はWeb上にあるサービスであると言っても過言ではないからだ。さらに電子居住権で「デジタルノマド」を世界から募り、物理的な国土の制約からも脱しようとしている。
エストニアが365日有効な「デジタル・ノマド・ビザ」発行を構想
















これらはすべて従来の「国家」や「政治」、「イデオロギー」、などという概念を解体する挑戦であり、それが常識を越えるスピードで進行している。電脳国家エストニアの挑戦は、仕掛ける側の想像をも超えた世界に、次々と私たちを巻き込んで行きそうだ。今、我々は巨大津波のような抗いがたい革命の時代にいるのかも知れない。

記事作成協力=株式会社Henge廣田周作氏
写真=株式会社黒鳥社/Yuri Manabe

WATER  DESIGN QUARTERY JOURNALより抜粋。



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