明石海峡大橋の完成を記念して販売された「ひっぱりだこ飯」 |
僕の知る限り、地方の名産を弁当にした「駅弁」は日本独自のものだ。欧米にも車内用のランチセットはあるが、その土地ならではの食べ物をセレクトしたランチセットに遭遇したことはない。調べたところ、駅弁は全国で約3000種類もあるという。新作も年に200種類ほど出るそうだ。価格は700~800円が相場だが、人気No.1といわれる「森のいかめし」のように500円以下のものもあれば、金沢駅で売っている「加賀野立弁当」のように1万円もする完全予約制の超高級品もある。駅弁業界は地味なようでいて、意外と競争が激しく、活性化しているのだ。近頃では東京駅でも全国の有名駅弁が買えるし、百貨店でも「駅弁大会」が開催される。ローカル商品という顔をしながら、全国的なメジャー商品も少なくないのが、昨今の駅弁事情なのだろう。
加賀野立弁当 |
しかし、駅弁のパッケージデザインは大概は土着的だ。デザインの典型は「2色印刷の紙ラベル」「筆文字で書かれた商品名」「十字に結ばれた紙紐」。和風といえば和風の意匠だが、過剰な洗練を嫌う。それぞれが、わざと「地方ぶり」を競い合っているようなところがあるのだ。だが仮に、僕が駅弁のコンサルタントを依頼されたとしても、おそらくその土着的なデザインは変えないと思う。デザインを過剰に洗練させれば駅弁特有の「味」というシズル感は失われ、食欲をそそらなくなると思うからだ。
同時に、1960年代から横尾忠則さんが行ってきた一連の仕事を思い出した。当時の彼の特異性は、モダンデザインの潮流に反して、土俗的な日本を表現に取り入れた点にある。彼の仕事を最初に評価したのが、「日本的なるもの」に生涯こだわっていた三島由紀夫や寺山修司だったというのも頷ける話だ。横尾忠則さんが扱ってきたモチーフは宮本武蔵や高倉健など、ドメスティックなものが多い。そのため、彼の作品は案外グローバルには知られていない。僕は大好きな作品だが、描くモチーフに世界性がないから想像しにくいのだろうか。駅弁と横尾忠則。日本人が郷愁として抱いている前近代制を刺激することで成立する、非常に日本的な商品といえる。
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