一枚3万ユーロ(400万円弱)と高額の写真だが、その価値は十分に感じた美しい深い驚くべき質感を持ったプリントだった。アートの不思議さは海岸に打ち上げられた産業廃棄物が優れた写真家のアートセンスと技術、そして丁寧なプラチナプリントの製造プロセスを経て価値のある芸術作品に昇華出来ることだ。
撮影から20年以上を経て初めて公開されることとなった本シリーズ『ON THE BEACH』私は誰もいない砂浜で孤独な作業を続けるうちに、文明は終わってしまったのではないか、という錯覚にとらわれた ―杉本博司『時の物差し』より。『ON THE BEACH』もまた、杉本が一貫して追求してきた、人間の記憶の古層、時間、そして文明の歴史を現像化したシリーズ。
杉本は1990年にニュージーランドの海を撮影中、ビーチにうち捨てられオブジェのように点在する自動車部品の残骸たちを見つける。 銀塩(シルバープリント)よりも精緻で、しかしより製造が難しいプラチナプリントに挑戦する機会を得た杉本は、撮影から20年を経て、そのニュージーランドの砂浜で撮影したイメージを「On the Beach」と名付け、自身初のプラチナプリント作品としてセレクト。
杉本曰く、その錆びついたオブジェたちは“時の物差し”である。そして「私は錆び果てた砂上の文明のかけらから、その物差しを得たような気がする」と語っている。砂浜のディテールを再現した深いテクスチュアのプラチナプリント12点。
Platinum Film from The Macallan on Vimeo.
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